もっと速くなるために参考になるじてトレ出版物の立ち読み版です。
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レースで自分自身が最悪の敵になってしまうこともあります。熱くなりすぎて頭がまっとうに回らなくなったりするのです。だから、レースが終わったらひとりで反省会をすべきです。失敗からは多くのことが学べますから。
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トラックのスプリント競技では対戦相手とトラックの両方に目配りをしつつ、前を走る技量が必要になります。この競技を見たことがある人ならわかるでしょう。トラック3周のスプリント競技で残り1周半。前を走る選手は対戦相手から一瞬も目を離しません。離した瞬間にダッシュされ、レースが終わってしまうからです。この競技に熟練した選手なら、前を見ることなくトラックを周回することができます。風景も路面状況も、すべて、一定だからです。対してロードレースやクリテリウムは、変化するものが多すぎて後ろをふり返るのは危険です。スプリント直前にライバルの状況を確認しようと後ろをふり返ったら、道に穴があってクラッシュするかもしれません。目配りしなければならない相手がたくさんいるのも、トラックのスプリント競技と違う点です。
友だちとふたり、コロラド州ボールダーの北でトレーニングしたときのことを紹介しましょう。アップダウンの田舎道を一定ペースで走っていると、自転車が1台、1km近く先を走っていることに気づきました。そのままのペースで走ったので、自転車はだんだん近づいてきます。
レースが始まったら、周りで起きていることを細大漏らさず把握します。アタックしているのはだれか。それをブロックしている人はいるか。いるならだれか。集団の反応は? アタックを集団が追いはじめるタイミングは? 脅威となる選手が逃げているか。いるのに集団が動かないなら、自分でなんとかしなければなりません。勝負を分ける動きには瞬間的に反応しなければいけません。遅きに失すればおしまいです。
レースはスタートするより前に始まっています。まず、コースとライバルを確認しましょう。どういうコースなのか。特徴は? どんなコースにも、レース結果を左右するようななにかが必ずあります。ごくありふれたコースにも、です。ウォーミングアップをしながら、利用できそうな場所はないか探しておきましょう。過去のレースがどういう展開になったのかも確認しておくべきです。今回も似たような展開になる可能性が高いからです。
あの選手は、なぜ、いつも逃げに乗れるのだろうと不思議に思ったことはありませんか。同じように強くて速いほかの選手がなかなか逃げに乗れないのに、と。もちろん、フィットネスやねばり強さも問題です。あれだけアタックできれば逃げに乗れてもおかしくないよなと思うほどくり返しアタックする選手もいます。
1987年春、私は、レースに参加するサイクリストに向けたニュースレターを書きはじめました。プロフォーム・レーシングというニュースレターで、14年にわたる選手生活で学んだトレーニングや戦術を伝えるものです。みんなに、よくあるまちがいを避け、上手に走り、賢くレースを戦ってほしいと思ったのです。
昔、講演の依頼を請け、米国自転車連盟のコーチングスタッフが企画した5日間のコーチ向けセミナーに出席したことがあります。戦術の講座は2時間の予定でしたが、時間が押して90分になってしまいました。担当したのはナショナルコーチ。私はメモを取りながら聞いていたのですが、講師が「戦術や戦略はトップライダーのためのものだ」みたいなことを言うので仰天してしまいました(言葉は多少違っていたかもしれません)。えええ!? 不作法を承知で言わせてもらえば、その意見には、根本的に、根源的に、徹底的に反対です。残りの90%はどうしろと? 寝っ転がって流れに身を任せていればいいというのか? それはあり得ないでしょう。
読者の皆さんが今、何を思っているのか、私にはわかります。そして私自身も同じ気持ちです。確かに、本章では、いい話はあまり出てきませんでした。しかし残念ながら、加齢のマイナス面はこれだけではなく、ほかにもまだ検討されていない問題があります。
さきほどの体重増加の話から、これから説明することはすぐ理解できると思います。前項では、加齢にともなって体組成に変化が現れるが、それは体脂肪の増加と筋肉の減少という、2つのファクターが相互に作用した結果だ、ということを説明しました。以前に説明した VO2maxの低下に、この体脂肪の増加と筋肉の減少を足したものが、加齢とともに起きるパフォーマンス低下の理由のビッグ3です。
最大酸素摂取量とは、私がずっと VO2maxと言い続けているものですが、これを求める計算式を覚えているでしょうか。念のためにもう1回式を示しましょう。
エコノミーの話は、ここまでです。持久性体力を構成する要素はたった3つです。トレーニングは、何をするにせよ、すべてこの3つのうちのどれかが関わっています。ストレッチはエコノミー、ロング走は VO2max、インターバルは VO2max、LT、エコノミーと関係があります。そしてウエイトリフティングはエコノミー、筋持久力トレーニングは LTといった具合です。すべての練習は、この3つのカテゴリーのうち、少なくとも1つには、きっちりとあてはまるのです。ですから体力を高めるためのトレーニングとは、実はさほど複雑なものではないのです。いちばんの問題は、自分のリミッターがどこにあるのかを見極め、そしてこの3つのうち1つ、あるいは複数の要素に則した練習を組み立て、それが向上できるようにすることです。
3つある生理学的な体力のものさしの3番目は、エコノミーです。エコノミーは VO2maxや LTほどよく知られてはいませんが、この3つのなかで最も重要だともいえます。エコノミーは、運動中、どれだけ効率的に酸素を使えるかということに関係しています。
乳酸閾値(LT)について説明すると、たいてい長引いて複雑になります。なぜなら説明を理解するには、運動生理学がわかっていることが非常に重要だからです。ここでは、説明が長くならないようにします。そして説明の途中で2つか3つ、ヒントを用意します。もしその前に理解できたとしても、新しい、おもしろい発見が、何かしらあるでしょう。
自分の体、ひいてはパフォーマンスにどのような変化が生じるのか、詳しく見ていく前に、そもそも、年齢に関わらず持久系競技のパフォーマンスに必要なものとは何なのか、ざっと確認しましょう。持久系スポーツにおける体力(フィットネス)とは何なのでしょうか。
1984年、ロサンゼルスオリンピックの男子マラソンでは、ポルトガルのカルロス・ロペスがオリンピック記録の2時間9分21秒で走り、ゴールドメダルに輝きました。当時38歳だったロペスは、オリンピック男子マラソン史上、最高齢の優勝者という記録も同時に打ちたてました。そしてこの記録は未だに破られていません。
年齢は、単なる数字に過ぎない。そう信じているシニア・アスリートもいます。年齢を言い訳にしたくない、という人たちです。年齢に関係なく、ハイレベルのトレーニングやレースができるはずだという主張を曲げません。そして未だに若く、エネルギッシュであるつもりで練習をします。その結果、そのとおり若々しく、エネルギッシュになります。アスリートとしての生活習慣にもまた、パワフルでポジティブな姿勢が表れています。
数年前、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックの研究者たちが、若さを取り戻す革新的な方法を開発しました(24)。もちろん、彼らの研究は年をとったマウスを使って行われたものであり、ベビーブーマーを試験したわけではありません。老化細胞が自滅する、ある薬をマウスに与えたのです。
興味深いことに、地球上の生物のすべてがこのテロメアの短縮に悩まされているわけではありません。扁形動物であるプラナリアを例にとり説明しましょう。この小さな生物のテロメアには、再生する能力、長さを維持する能力が無限にあるように見えます(12)。プラナリアは、脳から消化器系にいたるまで、体のあらゆる部位を無制限に再生し、生命を維持することができます。不老であるばかりか、不死であるとも考えられます。加齢の研究者がこの扁形動物に注目しているということは、想像に難くありません。
今まで見てきたとおり、我々がふつうだと思いこんでいた加齢は、人間にとって、実はまったくふつうではありません。シニア・アスリートがレースのたびに、それを証明してくれています。彼らの多くが、はるかに年下のアスリートをしのぐパフォーマンスを生みだしているのです。それが可能なのは、素質があり、自分を心と体の限界まで追い込み続けているからです。彼らは年齢という数字を、できないことの言い訳にしようとはしません。
あなたがたシニア・アスリートは、なぜいつも体を動かしているのでしょう。加齢の研究者がぜひとも知りたいと思っているのは、その理由です(1)。元気なシニア・アスリートの、ふつうでない生活習慣には、健康と長寿の秘訣が隠されています。たとえば、60歳を過ぎると肥満の人が急激に増えます。しかし、シニア・アスリートは運動をしない同年代の人と比べ、どう見てもたくさん食べていますが、体重は軽いのです。さらにすばらしいのは、冠動脈疾患にかかるリスクがふつうの高齢者よりもはるかに低いことです。
このように強度の重要性が明らかになると、疑問もわくかもしれません。はたしてシニア・アスリートは、若いアスリートと同じようにトレーニングの刺激に適応できるのか?そして高強度の練習をこなす能力があるのか?
シニア・アスリートの縦断研究については、どうしても過去に遡って考えなければなりません。生理学をいち早く運動に応用したのは、ハーバード大学疲労研究所のブルース・ディルらです。彼らがアスリートに対して行った加齢研究は、おそらく最初の縦断研究であり、その追跡期間の長さから、世界屈指の研究といえます。
本章は加齢の理解を目的としていますが、科学はその最適な手段です。したがって、調査とはどのように行うのかを知っておくべきです。瑣末なことのように思えますが、明らかにふつうでない目標を達成する我々にとっては、これを知ることで間違った情報を追わなくても済むのです。ですから、数字がどのようにして得られたのか、そしてそれがどう使われているのか、詳しく見ていきましょう。
ここではふつうの人との比較はやめて、我々に必要なことについて詳しく考察していきましょう。アクティブで体力があり、意欲も高い高齢のアスリートに、どれだけのことができるのかを見ていきます。このような人はそう多くはありません。だからこそ、ふつうではないのです。しかし、その最高のパフォーマンスで、どれだけのことが可能かを我々に示してくれることも少なくありません。一流の持久系アスリートが年齢とともにどうなるか、すでに我々にわかっていることを、ざっとまとめてみましょう。
これから10年先、20年先、30年先、あなたは自分の体に何が起きると思いますか?他人が老いていくのを目にはしていても、いずれ自分の身にも同じことが起きると考えたことはないでしょう。あなたはアスリートです。今まで体調を万全に整えてきました。最近いつ風邪をひいたか、覚えてもいないでしょう。確かに、ここ何年かのあいだでは、いくつか怪我をしたこともあったかもしれません。しかし、そんな経験のないアスリートなど、いるでしょうか?体力を向上させること、そして競技に参加することはいつも生活の重要な一部分でした。これからもそうあり続けることができるでしょうか?
私は70歳です。さあ、言ってしまいました。私がこの恐ろしい誕生日を迎えたのは、この本の執筆を始めてすぐのことです。今までにも、バースデーケーキの上にはたくさんのロウソクがありました。40歳、50歳。そして60歳のときも、その数を気にすることはありませんでした。しかし、70歳となると話は違いました。どういうわけか、70という数字は、69よりもずっと重く感じ、本当に年寄りだと感じたのです。この差はあまりにも大きいように思えました。80代をどうスタートさせるか、半年ほど考え込んでいたほどです。最も気がかりだったのは、これが、今までシリアス・アスリートとしてずっと続けてきた冒険が終わりを迎えた合図なのかもしれない、ということでした。とにかく、何が自分を待っているのか、わからなかったのです。
VO2maxは、心肺能力を示すベストの指標であるとともに、すべての持久系競技の選手にとって成功の中心的役割を担うことが、広く知られています。ランナー、トライアスリート、ボート選手、水泳選手、もちろんサイクリストも(表彰台を狙う選手は特に)、VO2maxを最大化するように練習時間を割り振る必要があります。持久系スポーツの競技中に勝敗を分けるような局面では、酸素摂取量はVO2maxの極限に近づきます。そしてVO2maxの値が最も高い選手がレースに勝つことが多い傾向にあります。
基礎期に最も多く実施するのはL2での走行練習です。目標とするレースの時間が長いほど、L2での走行時間を長くします。L2での走行は、心拍数やRPEを上げずに維持できる運動強度と持続時間で行います。初心者の場合、このL2での一定の有酸素運動を継続できる時間は15~20分間、上級者になると数時間は維持できるようになります。週に数回は、足を極端に疲れさせることなく、このゾーンでの走行ができなければなりません。